Skip to content

第九章 エンド帝国 ​

王国歴十二年。

北方防衛戦から、数週間。

王国軍は、一時的な勝利を収めていた。

しかし、その勝利は、誰の顔にも安堵をもたらさなかった。

「陛下。」

「偵察隊より報告です。」

王立情報局長官が、震える声で言った。羊皮紙を持つ手が、小さく震えていた。

「敵の転移門。」

「一つではありません。」

「全部で……。」

「三百。」

会議室が、静まり返った。

三百という数字が、言葉として理解されるまでに、数秒の時間がかかった。

元帥が、青ざめた。椅子に手をつき、体を支えた。

「三百だと……。」

ピックバーグは、古文書を広げた。指先が、紙の上を滑る。

「やはり。」

「エンド帝国だ。」

「しかも。」

「第四軍団だけじゃない。」

「第一軍団。」

「第二軍団。」

「第三軍団。」

「第五軍団。」

「そして。」

「皇帝親衛軍。」

一つ一つの名前が、まるで石を積むように、重く、会議室にのしかかった。

スターリンが、顔をしかめた。

「つまり。」

「もっと化け物がいるってことか。」

「そう。」

「しかも。」

「ENDER LORDより強い。」

その言葉に、会議室の空気が、一段と冷えた。


第十章 皇帝親衛軍 ​

数日後。

南方要塞。

空が、紫色に染まった。

「敵襲!!」

警報が、鳴り響いた。

兵士たちは、武器を構えた。これまでの戦いで、彼らも経験を積んでいた。多少の敵なら、退けられる自信があった。

しかし。

そこにいた兵士たちは、すぐに、絶望することになる。

空間から現れたのは、たった百人。

「たった百人?」

兵士たちは、思わず笑った。三百の転移門という報告を聞いていたからこそ、百人という数は、拍子抜けするほど少なく感じられた。

次の瞬間。

ドォォォォン!!

要塞の壁が、吹き飛んだ。

石材が、まるで紙のように、空へ舞った。

「なっ!?」

「うそだろ!?」

百人の黒い戦士。

漆黒の鎧が、紫色の炎を纏っていた。

その旗には、黒曜石の王冠が描かれていた。

「皇帝親衛軍……。」

報告を聞いたピックバーグが、震えた。

「エンド帝国最強。」

「一人で、千人に匹敵する。」

その中央に、一人の騎士が立っていた。

漆黒の鎧の中で、紫色の瞳だけが、冷たく光っていた。

「我が名は。」

「NIGHTMARE。」

「皇帝親衛隊長。」

「黄金王。」

「皇帝陛下がお呼びだ。」

その声には、命令ではなく、確信があった。

来るに決まっている、という確信。

抗うことなど、最初から想定されていない、という確信。


第十一章 エンダーワールド ​

巨大な転移門。

その向こうに、足を踏み入れた瞬間、三人は言葉を失った。

誰も見たことのない世界が、そこに広がっていた。

空に浮かぶ、無数の島々。重力を無視したように、ただ静かに浮遊していた。

紫色の海。波というより、光の膜が、ゆっくりと揺れているようだった。

黒曜石の都市。鋭く尖った建物が、まるで結晶のように、空へ向かって伸びていた。

そして。

無数のエンダーマンが、街路を行き来していた。普段の侵略者としての姿ではなく、ただの住人として。小さなエンダーマンの子供が、親の後ろを歩いていた。

「これが……。」

「エンド帝国。」

スターリンも、息を呑んだ。

「でかすぎる。」

ピックバーグは、青ざめていた。それでも、研究者としての目は、止まらなかった。

「記録以上だ。」

「滅んでなんかいなかった。」

「眠っていただけなんだ。」

天を貫く、巨大な宮殿が、彼らを見下ろしていた。

宮殿の奥。

玉座。

そこに座る者の姿が、ゆっくりと、見えてきた。

黄金王よりも、なお大きな身体。

漆黒の王冠。

紫色の、深く澄んだ目。

静寂が、玉座の間を満たしていた。

そして。

その者は、ゆっくりと、立ち上がった。

「久しいな。」

「地上の王よ。」

「……。」

オーレックスは、何も言えなかった。

「私は。」

「ENDER EMPEROR。」

「エンド帝国皇帝。」

その威圧感に、数々の死線をくぐってきたスターリンですら、汗を流した。


第十二章 皇帝 ​

「なぜ戦う!」

オーレックスは、声を張った。

「なぜ侵略する!」

皇帝は、静かに答えた。声には、怒りも、敵意もなかった。あるのは、ただ、深い疲労だけだった。

「生きるためだ。」

「我らの世界は、滅びかけている。」

「資源は尽き。」

「民は減り。」

「このままでは、終わる。」

「だから。」

「新たな世界を、手に入れる。」

「力で。」

オーレックスは、首を振った。

「違う!」

「奪うことが、答えじゃない!」

「共に生きる道がある!」

それは、彼がネザーを旅して、繰り返し確かめてきた言葉だった。村を救い、橋を架け、誰かを助けるたびに、確かめてきた言葉だった。

しかし。

皇帝は、悲しそうに笑った。それは、嘲りではなかった。むしろ、懐かしむような笑みだった。

「かつて。」

「私もそう信じていた。」

「だが。」

「数千年。」

「答えは、得られなかった。」

数千年という言葉の重さを、オーレックスは、想像することしかできなかった。たかだか数十年しか生きていない自分には、その絶望の深さを、本当には測れない。

「ならば。」

「力しかない。」

皇帝は、ゆっくりと、剣を抜いた。

黒曜石の刃が、紫色の光を反射した。

「黄金王。」

「お前を倒し。」

「世界を統一する。」

その言葉に、迷いはなかった。少なくとも、表面上は。

しかし。

オーレックスは、ふと、何かに気づいた。

皇帝の目の奥に、わずかに揺れる光があった。

確信ではなく、迷いに似た、何か。

それが何なのか、確かめる時間は、与えられなかった。


第十三章 黄金王対皇帝 ​

ガァァァン!!

黄金の剣と、黒曜石の剣がぶつかり、世界そのものが、揺れた気がした。

衝撃波が、玉座の間の柱を軋ませた。

紫色の雷が、空間を裂いた。

「うおおお!」

スターリンは、親衛隊長NIGHTMAREと激突していた。大斧と黒曜石の剣が、何度も交差する。一撃ごとに、火花が散った。

「お前、強えな!」

「皇帝陛下の剣を学んだ者だ。」

「光栄に思うがいい。」

「それより名前覚えにくい!」

戦いの最中だというのに、スターリンの口は止まらなかった。それが、彼の戦い方だった。恐怖を、笑いに変える戦い方。

一方。

ピックバーグは、戦いから離れ、宮殿の地下へ向かっていた。古文書に記された、ある一文が、頭から離れなかった。

『黄金とは、富ではない。希望そのものである。』

忘れられた砦で聞いた言葉が、なぜか今、頭の中で鳴っていた。

地下に降りると、巨大な黒曜石の機械が見えた。

「そうか!」

「これだ!」

「原因は、これなんだ!」

機械の中心に、巨大な、ひび割れた卵があった。

近づくにつれ、空気が、重くなっていくのを感じた。

「まさか……。」

「そんな。」

ピックバーグは、絶望に近い顔で、その卵を見上げた。

「エンダードラゴン。」

「まだ生きていたのか……。」

その時。

卵の奥から、声が響いた。

声というより、頭の中に直接、染み込んでくる何かだった。

『我を解放せよ。』

『全てを滅ぼそう。』

ピックバーグの顔色が、変わった。

何かが、繋がった気がした。

彼は、転移装置の脇に置かれた書物に、目を走らせた。古い、誰にも読まれていない記録。皇帝が、何のために兵を動かしていたのか――その本当の意味が、そこに記されていた。

「違う。」

「皇帝は、侵略者じゃない!」

「操られてる!」

その叫びが、地下から、玉座の間まで響いた。


第十四章 真の敵 ​

「オーレックス!」

ピックバーグが、階段を駆け上がりながら叫んだ。

「戦っちゃ駄目だ!」

「皇帝は、操られてる!」

「何!?」

剣を構えたまま、オーレックスが振り返った。

その瞬間。

巨大な声が、宮殿全体を揺らした。

『愚かな者たちよ。』

『我は終焉。』

『我は破滅。』

『我は竜王。』

ゴォォォォォ!!

地下から、卵が砕ける音が響いた。

そして。

天井を突き破り、巨大な翼を持つ影が、玉座の間に現れた。

紫色の瞳。何もかもを見下すような、巨大な瞳。

「エンダードラゴン!」

スターリンも、絶句した。

皇帝も、目を見開いた。

「まさか……。」

「封印が……。」

数千年間。

エンド帝国は、戦っていた。

世界を支配するためではなく。

このドラゴンを、封じ込めるために。

その事実が、ようやく、すべての辻褄を合わせた。資源の枯渇。民の減少。終わらない遠征。それらは全て、封印を維持するための、数千年にわたる消耗戦の結果だったのだ。

皇帝は、剣を取り落とした。

そして、膝をついた。

「すまなかった。」

「黄金王。」

その声には、もう、威圧も、敵意もなかった。あったのは、数千年分の疲労と、そして、わずかな安堵だった。誤解が解けたことへの、安堵だった。

オーレックスは、剣を下げた。

そして、微笑んだ。

「一緒に戦おう。」

皇帝も、笑った。

数千年ぶりに。

「……ああ。」

その一言には、数千年分の孤独が、溶けていくような響きがあった。


終章 ​

こうして。

黄金王。

スターリン。

ピックバーグ。

そして。

エンド帝国皇帝。

四人は、真の敵――エンダードラゴンとの戦いへ、向かう。

力で支配しようとした帝国も、平和を願って旅をした王も、最後に立ち向かう敵は、同じだった。

黄金とは、富ではない。

希望そのものである。

忘れられた砦で聞いた言葉が、今、確かな意味を持って、オーレックスの中に在った。

後に。

この戦いは。

「黒曜石戦争」

と呼ばれることになる。

そして。

誰も知らない。

さらに恐ろしい存在。

古代エンダードラゴン。

そして。

世界を創った者たち。

ANCIENTS。

彼らとの戦いが、まだ、始まってすらいないことを。

新たな歯車が、静かに、回り始めていた。


PIGLIN KING

第二巻 黒曜石戦争

完

Long live the Piglin King!